肺結核
なくならない感染症
結核は昔の病気、あるいは、発展途上国の病気と考え、「今でも日本に結核があるのですか」と聞かれることもあるほどですが、わが国では今も毎年3万人もの人が発病しています。決して患者数の少ない病気ではありません。日本から結核を根絶できるのは、何十年も先の西暦2060年以降のことと予測されているくらいです。
感染しても80%は発病しない
結核をなかなか根絶できないのは、結核菌がしぶとい菌だからです。結核に感染すると、肺の中に小さな病巣[びようそう]ができますが、この病巣自体は比較的治りやすく、そのまま悪くなって結核になることはそれほど多くはありません。結核に感染しても、80%くらいの人は発病せず、一生を無事に送ることができます。
高齢者の結核は20〜30年後に発病する
ところが、自分でもいつ感染し、いつひとまず落ちついたのか気づかないうちにできたこの小さな病巣[びようそう]の中に閉じ込められた結核菌が、10年、20年たってもこの中で生きつづけていることがあります。
そして、なんらかの理由でからだの抵抗力が落ちたときに、閉じ込められていた結核菌が増殖をし始め、じつに感染後20年、30年たってから発病するということが起こってくるのです。
最近、結核になった人の約半数が60歳以上の高齢者ですが、高齢者結核の大部分は、このようにして発病しています。そのうえ、今60歳以上の人のおよそ半数は、若いうちに結核に感染していますので、新たに感染を受けなくても結核になるかもしれないのです。
結核の感染
条件がそろわないと感染しない
結核は結核菌の感染で起こる感染症ですが、結核患者と接触してもそれほど簡単に感染することはありません。結核の感染は、次の4つの条件がそろうことによって決まります。
(1)感染源となる患者の「たん」の中に結核菌が出ていること。たんを塗抹[とまつ]して調べたら、大量の菌がみられたという場合(塗抹陽性)が特に危険です。
(2)患者が激しいせきをしていること。結核菌はせきと一緒に飛び散ります。せきがなければ、結核菌が外に飛び散ることはめったにありません。
(3)感染を受ける側の人は、今までに結核に感染していないこと。なぜなら、すでにいちど結核に感染している人が再び感染すること(再感染および重感染)は普通まずありません。
(4)感染源(患者)と感染を受ける人が、ある程度の距離で接触していること。結核は「空気感染」するといわれています。「せき」のときに飛び散った飛沫の液体成分が蒸発すると、中にあった菌は裸の状態となります。こうなると軽いので、空気の流れにのって思わぬ遠いところにいる人が感染することもあります。しかし、普通は「話をする程度の距離」で接触した場合に感染することが多いようです。結核は食べ物や食器を通して伝染することはありません。患者がせきをした際に飛び散る“しぶき”の中に含まれる結核菌を吸いこんでうつるのです。
結核の発病
BCG接種を受けていない場合には、感染にひきつづいて肺門リンパ節*が腫脹[しゆちよう]したり、4〜5カ月で結核性髄膜炎[けつかくせいずいまくえん]*になるなど、比較的早期に発病することが少なくないのです。しかし、BCG接種を受けている人では発病率が低く、結核性髄膜炎など重い病気は約80%、肺結核は約50%防止できますので、発病率はずっと低くなります。また、発病してしまっても、感染後6カ月くらいたってからのことが多く、病気自身も軽くすみます。
ただ、BCGの効果は絶対的なものではないので、発病を完全に防ぐわけではないこと、一度感染を受けると、3〜5年の間は大丈夫でも、もっと後になって発病することがあることを知っておいてください。結核菌はしぶとい菌なので、感染を受けないようにすることがもっともよいことであることはいうまでもありません。
肺門リンパ節
気管支や動脈、静脈が肺に入っていく部分を肺門といいます。この部位にあるリンパ節には肺のリンパ液の大部分が集められ、流れ込んできます。結核に初めて感染したときには、この部位のリンパ節に結核性病巣ができ、リンパ節が大きく腫れます。
結核性髄膜炎
結核菌が血管の中に入り、血流に運ばれて脳をおおっている薄い膜に達し、ここに病変をつくる病気を結核性髄膜炎といいます。頭痛、発熱などの症状で始まり、やがて嘔吐、意識障害など重篤な症状を呈します。
早い時期に強力な治療を始めないと、麻痺〈まひ〉、認知症(痴呆症)など重大な後遺症を残すことがあり、救命できない場合も少なくありません。BCG接種をしておけば、子どもの結核性髄膜炎の発症の大部分を防ぐことができます。
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