耳鳴りの新治療法

７割の人が効果を実感

“治らない”ともいわれてきた耳鳴りの、画期的な治療法として注目を集めているのが「ＴＲＴ」だ。十数年前から欧米を中心に普及し始め、最近は日本でも実施する医療機関が増えているという。どんな治療法なのか、専門医に聞いた。

　ＴＲＴは「Ｔｉｎｎｉｔｕｓ　Ｒｅｔｒａｉｎｉｎｇ　Ｔｈｅｒａｐｙ」の略だ。日本語では「耳鳴り順応療法」だ。
「特殊な機器を使って耳鳴りに慣れる訓練をする治療法です。これまでの治療法は“耳鳴りをなくそう”というものでしたが、原因不明のものも多く、耳鳴りを消すことは難しいのが実情でした。ＴＲＴ療法は“耳鳴りを気にならないようにしよう”というもので、従来とは別の発想から考え出された治療法です」（慶応義塾大学病院耳鼻咽喉科の小川郁教授）
　大阪の「耳鼻咽喉科　サージクリニック　老木医院」老木浩之院長は「薬物療法が効く人は１、２割以下ですが、ＴＲＴは７割前後が効果を実感しています」と言う。
　治療はカウンセリングから始まる。
「“耳鳴りは治らない”“不安だ”という意識があると、症状が一層悪化し悪循環に陥ります。カウンセリングで“治療で耳鳴りが随分軽くなる”といったことを時間をかけて話し、耳鳴りについて理解を深めてもらいます」（「笠井耳鼻咽喉科クリニック」笠井創院長）

　カウンセリングの次は、ＴＣＩという耳鳴り治療器を患者さんに着けてもらう。見た目も使い方も補聴器に似ている。
「ＴＣＩからは心地よい音が聞こえてきます。これを毎日聴くことで、脳で音の選別が行われるようになり、ＴＣＩの音だけを意識するようになります。そして、次第に耳鳴りは“無視していい音”と脳が判断するようになり、意識しなくなるのです」（老木院長）
　ＴＣＩの装用は１日４〜６時間。早い人は１〜２カ月、平均半年くらいで効果が出てくる。人によっては、ＴＣＩを外しても耳鳴りが気にならなくなる人もいるという。
「薬物療法など既存の治療が有効でない耳鳴りに対しても有効性が認められています。耳鳴りに伴うことが多い聴覚過敏（音が割れて聞こえたりする症状）については、現在最も有効である唯一の治療法でもあります」（「耳鼻咽喉科まつだクリニック」松田太志院長）
　ＴＲＴが無理な人もいる。
「急性の耳鳴りや左右両方の耳が聞こえない人などです。さらに、カウンセリングにはある程度の理解力が必要で、それが難しい人もＴＲＴは向いていません」（松田院長）
　問題は健康保険が適用されない点。ＴＣＩは６万３０００円で実費負担になる。それでも耳鳴りに悩む人にはやる価値大だと思うが――。


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