狭心症
ごく短時間だけ生じる可逆性(元に戻りうる)の心筋虚血によって、一過性の胸痛発作が起こった状態を狭心症といいます。
胸部に起こる“狭心痛”が特徴
【胸痛の性質】
胸痛は、“狭心痛”といったほうがふさわしく、その性質は痛みというよりも、なんとも表現しにくい不快感で、絞めつけられるような、押しつぶされるような、息が詰まるような、焼けつくような、刺されるような、鈍くうずくような、しびれるような、など人によってさまざまに表現されます。時には胸部に熱感や冷感として感じられることもあります。このようないわゆる狭心痛が起こったときには、不安感やいやな予感を伴いがちです。
【胸痛の部位】
このような狭心痛を感じる部位は、通常、前胸部で、ことに胸骨裏面を中心とする握りこぶし大の広さであることが多く、また表面的でなく胸の奥にそれを感じます。また、前胸部に始まる狭心痛は、おもに左側の肩や腕、頸部[けいぶ]、下顎[したあご]などに放散する(響く)ことがあります。
時に狭心痛を上腹部から下顎にかけてのいろいろな部位や頸部、肩、上腕などに感じる場合、あるいはこれらの部位から始まって前胸部に移っていく場合もあります。
狭心痛の初発部位が肩や腕、あるいはのどや下顎であったりすると、整形外科や耳鼻咽喉科、あるいは歯科を受診することがままあります。
また、上腹部に感じると消化器疾患と間違えられることもあります。
【胸痛の持続時間】
この狭心痛は、発作性で突然起こりますが、その持続時間は1〜15分(多くは2〜3分)と短く、自然に、あるいは速効性硝酸薬(ニトログリセリン*錠やイソソルビドジニトレート錠)を舌下[ぜつか]に含んで溶かすことで消失するのが特徴です。
ニトログリセリン
ニトログリセリンやリンでダイナマイトを発明し、ノーベル賞を設けたのはノーベルでした。しかし、ノーベルも、ニトログリセリンが後に狭心症の治療薬に使われるとは予想もしなかったことでしょう。
労作狭心症[ろうさきようしんしよう]と自発狭心症
以上のように特徴的な狭心痛の発作を起こす狭心症は、その起こる機序や性質などによって大きく労作狭心症と自発狭心症(安静狭心症)に分けられます。
さらに前者は、
(1)新規労作狭心症:発症1カ月以内の労作狭心症
(2)安定労作狭心症:発症後1カ月以上で、発作の程度も頻度も安定している労作狭心症
(3)増悪型労作狭心症[ぞうあくがたろうさきようしんしよう]:これまでと同様な労作でも、発作の頻度、狭心痛の強さや持続時間が急に悪化した労作狭心症
の3つに分けられます。臨床的には、労作、自発の両者がさまざまな程度に混ざった形で狭心症を発症する例が多いのです。
また、臨床的にみた病状の安定度により、安定狭心症と不安定狭心症の2つにも分けられます。安定狭心症は(2)の安定労作狭心症だけで、これ以外はすべて不安定狭心症に入り、原則として入院のうえ、早急に検査、治療が必要です。
労作狭心症
労作狭心症[ろうさきようしんしよう]は、動脈硬化により、冠動脈にある程度以上の狭窄[きようさく]があって起こるものです。安静時には心筋の血流量はなんとか保たれていても、肉体的・精神的労作によって心筋の仕事量、すなわち心筋酸素需要(おおまかには収縮期血圧×心拍数で計算できます)が高まった際に、それに応じきれるだけの血流量が不足し、心筋虚血が発生したときに起こります。したがって、労作狭心症は、相対的な心筋の血流量不足――酸素不足状態といえます。
【労作狭心症の誘因】
このような労作狭心症を引き起こす誘因はさまざまで、また人によって異なります。
肉体的労作として多いのは、急ぎ足、走る、坂道や階段を上がる、重いものを持つ、食事直後の動作、掃き掃除、芝刈り、冷たい風に向かって歩く、雪かきなどです。
精神的労作としては、怒り、苦しみ、悲しみ、あせり、喜び、感激、スポーツやテレビを見てのエキサイトなどの興奮状態が挙げられます。
そのほか、慣れない旅行、性交、入浴、用便、過食・過飲、冷たい飲み物、喫煙などによっても狭心症が誘発されることがあります。
労作狭心症では、誘因が去ると(例えば歩行中なら歩行中止)、狭心痛がうそのように消失するのが通常です。
【労作狭心症の分類】
労作狭心症は、臨床的に前述の(1)(2)(3)として挙げた3つに分けられます。
自発狭心症(安静狭心症)
この狭心症は、労作狭心症[ろうさきようしんしよう]のように心筋の仕事量(心筋酸素需要)の増加をきたすようなはっきりした誘因がなくて、安静時やごく軽い体動時に狭心痛が起こるのが特徴です。
自発狭心症の場合、通常、その狭心痛は労作狭心症より強く、長く持続する傾向にあります。
代表的なものに異型狭心症がある
異型狭心症の特徴は、周期的に、特に就寝中の夜中から明け方にかけてくり返して起こることです。また、発作時の心電図が心筋梗塞[しんきんこうそく]発作によく似た変化を示すのも特徴で、発作時には心筋梗塞との鑑別が必要となります。
異型狭心症は、冠動脈の病変の程度にかかわりなく、冠動脈が突然に一過性のけいれん(攣縮[れんしゆく])を起こして内腔[ないくう]を閉塞[へいそく]し、血流が一時的にとだえてしまう状態によって起こります。
冠動脈がこのような攣縮を起こすしくみはまだよくわかっていませんが、自律神経系の異常興奮や、血小板の中にあるトロンボキサンA2という血管収縮物質の関与などが考えられています。
この異型狭心症の発作時には、危険な不整脈を起こして急死する場合があります。なお、この狭心症は日本人に多いことも知られています。
狭心症の治療
狭心症の治療には、大きく分けて一般療法、薬物療法、血行再建療法があります。
一般療法:日常生活上の注意
狭心症では、日常生活上の注意が必要です。特に労作狭心症[ろうさきようしんしよう]は、心身の安静だけで発作を起こさなくすることができるので、どのようなときに発作が起こるかをいちばんよく知っている本人が、その誘因を避けることが第一です。
一般には、過度の運動や精神的興奮・過食・過飲を避け、禁煙し、休養・睡眠を十分にとり、同時に、冠動脈硬化を促進させる危険因子(動脈硬化症→461頁)の除去、是正など節度ある生活を心がけることが大切です。
なお、適度な運動は治療につながりますので、医師にご相談ください。
薬物療法
狭心症は、心筋虚血が一過性に起こったときの自覚症状ですが、前に述べたように、その起こり方からおおまかに2つに分けられます。ひとつは、労作狭心症[ろうさきようしんしよう]のように心筋の酸素需要増加に対して酸素供給が相対的に不足する場合です。もうひとつは異型狭心症のように冠動脈が攣縮[れんしゆく]して内腔[ないくう]を閉塞[へいそく]するため、心筋への酸素供給が絶対的に不足する場合です。
狭心症に対する薬物療法は、このような発生の機序に対応して、基本的には心筋の酸素需要増加を抑える効果がある薬物と、冠動脈を広げて心筋への酸素供給を増す効果のある薬物が使われます。
非薬物療法(血行再建療法)
薬物療法では、狭心症の発作を抑制することができても、冠動脈硬化によって生じた器質的な狭窄[きようさく]そのものを治すことはできません。
そこで、冠動脈の重要な部位に高度な狭窄や閉塞[へいそく]があるときには、血行再建療法として経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパス術を行います。
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