動脈硬化症[どうみやくこうかしよう]
動脈硬化は血管壁の病変
動脈硬化とは、動脈壁が(特に内膜が)厚くなり、本来の構造が失われて、弾力性が低下してかたくなることをいいます。
動脈硬化によって、動脈壁に病変が起こっても、初期のうちは特に症状はありません。しかし、ある程度病変が進むと、血液の流れが悪くなったり、血管そのものが破綻して、その動脈の流域の臓器に影響が現れてきます。
脳、心臓、手足、腎臓[じんぞう]など全身で起こる
動脈硬化は、からだのあらゆるところで起こります。おかされる臓器とそれに関連する動脈の部位によって分類すると、次のようになります。
(1)脳へいく動脈に起こる脳動脈硬化症
(2)心臓(心筋)の動脈に起こる冠動脈硬化症
(3)腹部や胸部の大動脈に起こる大動脈硬化症
(4)手足へいく動脈に起こる末梢動脈硬化症
(5)腎臓へいく動脈に起こる腎動脈硬化症
などがおもなものです。
動脈硬化は3つに分けられる
ひとくちに動脈硬化といっても、その原因(誘因)や成り立ちはさまざまで、動脈壁に生じる病変によって大きく3つに分類されます。
(1)太い動脈および比較的太い動脈の内壁、特に内膜に、コレステロールを主成分とする脂質が沈着している粥状硬化[じゆくじようこうか](アテローム*硬化ともいいます)
(2)四肢[しし]などの動脈壁の中膜だけに、カルシウムが沈着(石灰化*といいます)している中膜硬化
(3)脳や腎臓[じんぞう]などの臓器内部の細い動脈の壁が厚くなり、内腔[ないくう]が狭くなる細動脈硬化
このうち、中膜硬化は高齢者に多くみられる動脈硬化のひとつで、加齢に従って動脈壁の筋肉層(中膜)に変化を起こすと考えられています。かたくなり弾性は失われていきます。
細動脈硬化は、直径100μ(ミクロン)*とか200μという、脳などの内部のごく細い動脈の壁が全体的に肥厚し、もろくなってきます。加齢に伴う変化のほか、高血圧との関連が重視されています。高血圧が長い間つづくとその圧力で細動脈の壁が傷つきやすく、細動脈硬化は一層進行します。このため高血圧はますますひどくなるという悪循環を招きます。
脳の細動脈硬化では、弾力性を失った細動脈は血圧に対する抵抗力が弱くなり、袋状に拡張して、小さなこぶ(動脈瘤[どうみやくりゆう])を形づくり、これが破れて脳出血の原因となります。
アテローム
アテロームとは、ギリシャ語で「かゆ」という意味です。
石灰化
石灰とは酸と結びついた(酸化)カルシウムのことです。血液中のカルシウムは、リン酸カルシウムの形となって血管壁に沈着します。
直径100μ(ミクロン)
1μは1mmの1000分の1ですから、100μといえば、直径わずか0.1mmにすぎません。動脈壁を構成する筋肉層(中膜)も当然薄くなります。
もっとも注意を要する粥状硬化[じゆくじようこうか]
粥状硬化(アテローム硬化)は、心臓を取り巻く冠動脈、心臓からの血液を受け入れる大動脈、その大動脈から枝分かれして、腎臓[じんぞう]と連絡する腎動脈、下肢[かし]へいく腸骨動脈[ちようこつどうみやく]や大腿動脈[だいたいどうみやく]、脳へいく内頸動脈[ないけいどうみやく]・脳底動脈[のうていどうみやく]などの、比較的太い動脈の壁によく起こります。
粥状硬化[じゆくじようこうか]は長い年月をかけ進行する
この粥状硬化は早い場合、すでに10歳代から始まります。個人差はありますが、その後長い年月をかけて、加齢とともに進展していきます。
初期の病変は、動脈壁の内側表面の内皮細胞(内膜)の下に、血液中のコレステロール、リン脂質、トリグリセリド(中性脂肪)などが沈着することです。メスを入れてみれば、それらは黄色い斑状あるいは線状になって見えるはずです。
その後、その部位に中膜の平滑筋細胞[へいかつきんさいぼう]や細胞間をくっつけている結合組織の成分が増殖して固まり内膜が肥厚し、内腔[ないくう]側にふくらんできます。この塊が粥腫[じゆくしゆ](アテローム)で、かゆのようにドロドロしています。
さらに進むと、粥腫がつぶれたり、その部分に血栓[けつせん](血液の塊)がついたり、石灰化なども起こって、一層複雑な病変となっていきます。そうなると、血管の内腔はさらに狭くなってしまいます。
動脈硬化を進める危険因子
動脈硬化(特に粥状硬化[じゆくじようこうか])の危険因子は次のようなものです。
(1)高脂血症(2)高血圧(3)喫煙(4)糖尿病(5)肥満(6)高尿酸血症*(7)運動不足(8)A型性格(A型行動パターン)、ストレス(9)狭心症や心筋梗塞[しんきんこうそく]を起こした人が家族にいること(10)男性であること(11)加齢
これらの危険因子をひとつだけでなく複数もっていると、動脈硬化を進行させる危険は一層高まります。特に内臓脂肪が増加し、血圧の上昇、トリグリセリドの上昇、糖代謝異常が合併した状態は、メタボリック・シンドローム(代謝症候群)と呼ばれ、動脈硬化が進展しやすい状態です。
家族歴であるとか、男性であるなどは変えることが不可能な因子ですが、ほかの因子は多かれ少なかれ改善可能なものです。危険因子をできるだけ早く発見して、それを上手にコントロールすることが、動脈硬化の予防と治療にもっとも重要です。
高尿酸血症
高尿酸血症で起こる痛風では心筋梗塞、脳血管障害、腎障害〈じんしょうがい〉が高率に合併することが古くから知られています。一方、虚血性心疾患患者の血清尿酸値が高いことが報告されています。尿酸が高くなるような状態では肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病などを伴っていることが多く、それで動脈硬化が進みやすいと考えられています。
動脈硬化は治るか
治療の基本的な考え方
動脈硬化の治療の原則は、まず食事療法です。その理由として、食事療法がかなり効果的であるうえに、薬物療法に比べて副作用が少ないことが挙げられます。
運動療法を適当に取り入れることも効果的です。日常的な運動によって筋肉のリポたんぱくリパーゼの活性が増加し、血清脂質の代謝を改善します。そのほかにも、運動は血圧を安定させたり、糖代謝を改善させる効果があります。
食事療法や運動療法だけでは、動脈硬化の進行が抑えられないときには、薬物療法を始めます。この場合でも、食事や運動療法は基礎的な治療としてつづけることが重要です。
食事や薬の有効性が明らかに
血清コレステロール値が高いと冠動脈疾患が増加することが、多くの研究で明らかにされていますが、血清コレステロールを治療によって低下させたら、本当に冠動脈疾患の発症が減少するかどうか、実際のところは、あまりはっきりわかってはいませんでした。
しかし、最近になって、コレステロール低下薬を使用すると、高脂血症患者が冠動脈疾患を起こすのが明らかに減ったという信頼できる成績が相次いで報告され、血清コレステロールの異常を治療することが十分に意義をもつものだとわかってきました。
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